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臥篭の中に

夜も更けて空は紺桔梗となっていた。遠くで梟がひとつ溜息を漏らした以外、人の気配も動物の気配もしないそんな宵である。
司馬懿は手燭と水差しを持って寝所に入った。
寝所はさして大きくなく、櫃と二つの燭台、壁際にはこじんまりとした寝台が置いてあるだけの質素なものだ。
その寝台の上には、頭を垂れている内袍ひとつの諸葛亮がいた。戦に負けた諸葛亮を捕縛した後、気を失わせる薬を飲ませてからここに運ばせ、寝台の柱に両手を後ろ手で括り付けて座らせておいたのだった。それからしばらく経っているので、そろそろ薬も切れる頃だろう。司馬懿は手燭と水差しを近くの櫃に置いて寝台に上がった。
諸葛亮の顎を掴んで上を向かせたが、まだ目が覚める気配はなかった。それを見た司馬懿は諸葛亮の頬を一度二度と音を立てて張った。
低く呻き声を漏らした諸葛亮はぼんやりと目を開いた。意識が混濁しているのか、ただただ目の前を見つめているだけだった。司馬懿は再度頬を叩いた。
「起きろ、のろま」
「・・・」
初めて司馬懿が側にいる事を知った様子で素直に驚いて見せた。そして、何故司馬懿がここにいるのか、今どこに自分はいるのかを段々と察した諸葛亮は咄嗟に寝台から降りようとして両手首が拘束されている事に気が付いたようだった。何度か腕を抜こうとして抗った後、不可能と感じたのか普段表情を殆ど変える事がない彼が僅かな怒りを見せながら言った。
「・・・どういう心づもりです」
「どうもこうもなかろう。ただ、この状況のままだ。それ位聞かずとも分かれ」
「敗将を辱めるのが貴方の趣味ですか。ここまでの悪癖を持っているとは存じませんでした」
「貴様は負けたのだ。逆らう権利があると思うな」
「貴方・・・、本当にろくな死に方しませんよ」
「ふん。死ぬ時の事などどうでもいいわ」
司馬懿は櫃の上に置いてあった水差しに手を伸ばした。そのまま無造作に諸葛亮の鼻を片手で塞いだ。何をされるのか気付いた諸葛亮は首を振って司馬懿の手を振りほどこうとしたが、それを許さないように壁に押さえつけながら鼻を塞ぎ続けた。しばらくの間抵抗をしていた諸葛亮だが息を吸おうと僅かに開けた口に水差しを捩じ込まれた。だが、液体は注がれた後にすぐに吐き出した。口元を濡らしながら咳き込む諸葛亮を、またも司馬懿は打った。それを諸葛亮は睨み返した。
「往生際が悪いぞ。その態度は、貴様の戦そのものだな」
再度無理矢理に液体を口に流し込んでから、今度はその口も一緒に強く塞いだ。力の限り抗う諸葛亮だったが、息苦しさには勝てず遂にそれを飲み込んだ。手を離すと、息を吸う為に何度も荒く息を繰り返した。
「貴様がそうだから、こういう薬が必要になるのだぞ」
そう言いながら司馬懿は腕を伸ばして空になった水差しを櫃に置いた。
「・・・どこまで・・・貴方という人は」
「私を非難するのも結構だが、まずは己の立場をわきまえたらどうだ諸葛亮」
「ひとでなしという言葉は貴方を評する為に生まれたのでしょうね」
「本当に口が減らぬな。そもそも猿ぐつわをされなかっただけでも有り難いと思え。・・・まあ、そんなものをしなくても貴様は自分の舌を噛んで死ぬなんて事は絶対にしないだろうからな。劉備の仁の志とやらを遂げぬまで足掻くであろうし」
諸葛亮は反発するように司馬懿へ視線を向けた。
「あんな、頭の悪そうな男のどこがいいのやら」
それを聞いた瞬間に諸葛亮は足で突き飛ばそうとしたが、逆に司馬懿はそれを捉えた。そのままその脚を大きく開かせるようにして自身の身体を捩じ込んだ。顔を背けた諸葛亮の胸元に手を伸ばして愛撫を与えながら、同時に耳朶を舐めた。形をなぞるようにして舌を動かすと眉根を寄せて硬く歯を食いしばった。首筋、鎖骨、胸元、脇腹へと唇で辿っていく。足の付け根を強く吸った後、そのものを口に含んだ。
「な、何を・・・っ」
「貴様がいつまでも意地を張るからだ」
わざとらしく大きく濡れた音を立てながら吸うと諸葛亮の足が僅かに震えた。
「・・・悪趣味・・・っ」
舌先で味わうように転がしたり、歯をたてて軽くくわえたりしているうちに諸葛亮は身体をよがらせて膝を浮かせた。硬く結んでいる口元からは息が漏れ始めた。強く吸うと首を仰け反らせてから大きくわなないた。震えが収まるとゆっくりと頭を垂れた。
出されたものを飲み込んだ司馬懿は微かに咳き込んだ。それから力なく俯いている諸葛亮の顎に手を伸ばし上を向かせる。
弱く息を繰り返す諸葛亮だが、覗き込んだ司馬懿を強く睨み返した。
「驚いたな・・・。さすがに、大した意志力だ・・・。その強情さには、頭が下がるわ」
司馬懿は諸葛亮の口に親指を深く入れてこじ開けた。反対の手の人差し指と中指を口に入れてその舌を追い回すようにして中を遊んだ。諸葛亮は嫌そうに眉をひそめて身体を強張らせた。
「逃げるな。ここで手を抜けば、後で苦しむのは貴様だぞ」
飲み込めない唾液がひとすじふたすじと首を濡らしていった。しばらくしてから司馬懿は諸葛亮の内袍を完全にくつろげさせて、その後ろへと手を伸ばした。
「・・・っ」
ゆっくりと指を入れていってほぐすようにして動かした。諸葛亮は抵抗するように身を捩るが、深く抱き寄せるようにしてそれを抑えた。
中を探るにように動かしていると、ふとひっかかりがあったのでそれを強く擦った。
「あっ・・・」
今まで声ひとつ出そうとしなかった諸葛亮が大きく声を漏らした。更に同じ場所をいじると背中を反らせて「・・・やっ、あ・・・」とまたも熱く息を吐いた。諸葛亮の顎を掴み明かりの方へ向けさせると、目が僅かに朦朧としていた。どうやらやっと薬が効いてきたようだった。
そこで両手首の拘束を解く為に一度指を抜くと、それさえも刺激になるのか微かに身体を震わせた。結び目が固かった為に少し手間がかかったが、解くとぎこちなく司馬懿の首元に両腕を回して、子供が親にしがみ付くように抱きしめた。その様子を見て満足そうに笑った司馬懿は再度指を入れて中をまさぐった。諸葛亮は腰を浮かしながら首筋に縋り付いて、司馬懿の喉元で声を漏らした。
「は。これが蜀漢の丞相とは呆れるな・・・」
笑いながら先程見つけた場所を強く引っ掻くと、諸葛亮はいやだいやだという様に首を振った。
「や・・・っ、やめ」
「ここでやめていいのか」
その問いに諸葛亮は首筋に埋めるようにしてまた頭を横に振った。
「どうなんだ。はっきり言ったらどうだ。どうして欲しいのだ」
「・・・ん・・・」
首に縋り付いている腕の力を強めた。子供が恥ずかしがっている時にそうするように顔を伏せて頭を横に振るだけである。
それを見た司馬懿はひとつ溜息をついた。
「仕方ない。今回だけだぞ。次はしっかりねだらないとやらないからな」
そう言ってその場所を強く指でいじると喉を反らせた。少しすると諸葛亮は大きく震えた後に二人の腹を汚した。
それを司馬懿は指で拭ってから、また後ろへと指を入れてそれを塗り込めた。
「腰を浮かせ、諸葛亮」
素直に浮かせた腰を両手で掴んで自身のものを入れるようにして腰を下ろさせた。
「ん、やっ、あ」
首に縋り付こうとする諸葛亮の身体を肘を張って離させた。
「顔を、見せろ」
「いや・・・」
「諸葛亮、私を見ろ」
腰をゆっくと動かすと、泣きそうな顔をしながら司馬懿を見つめた。
「・・・司馬懿、・・・司馬懿」
中は驚く程にきつく熱く、司馬懿は思わず息を漏らした。諸葛亮が涙をひとすじ流しながら司馬懿の頬にそっと手を添えた。
「・・・どうした」
「司馬懿・・・」
年端もいかぬ娘が想いを寄せている人を恥ずかしそうに呼ぶように、切なげに名前を囁いた。その顔を見て司馬懿は思わず息を飲んでしまった。一体、この男はなんという表情を見せるのだろうか。そうしていると諸葛亮が静かに口を合わせてきた。こういう場合は舌を噛まれる場合もあるのでなるべく口は合わせないようにしていた。受けるか一瞬逡巡した司馬懿だが、深く深く味わうように柔らかく口づけられたそれに、いつの間にか酔いしれそうになった。無意識に諸葛亮の後ろ髪を優しく撫でていた事に気付き、すぐにそれを止めた。
振り払うように、腰を乱暴に動かしてみるとまた強く抱きついてきた。司馬懿の耳元で喘ぎ声を漏らしながら、諸葛亮は震える唇でその頬に口づけた。腰を動かしながら今度は司馬懿から諸葛亮に口づけた。慈しむように司馬懿の頭を撫でながら舌を絡ませてくる諸葛亮の背中を、そっと撫でた。
「あ、・・・もう・・・っ」
そう漏らしてから大きく背を仰け反らせて身を捩った。司馬懿も息を詰めるようにして諸葛亮の腰を強く掴んだ。
「・・・んっ」
涙を流しながら小さく口を開けて荒い息を繰り返す諸葛亮の首筋を密やかになぞってから、司馬懿も大きく身体を震わせた。

  

  

それから何度か抱いた後に諸葛亮は完全に気を失った。頬を打っても目を覚ます気配はなかった。
寝台にぐったりと横たわる諸葛亮を司馬懿は見つめた。
大分汗をかいたようで、髪が水を浴びたように濡れていた。風邪でもひかれては面倒だと思った司馬懿は寝台の布で諸葛亮の身体を拭き、髪も乾かすように拭いた。
消耗しきった諸葛亮はとてもその普段の姿からは想像出来ない程、弱々しい表情を見せていた。全ての意識が飛んでしまっているのだろう。
司馬懿は諸葛亮の額を、親が子供にそうするように撫でた後に口づけを落とそうとして、やめた。少し考えてから、先程縛っていた布で諸葛亮の両手首をまた柱に括り付けた。
また、ここで寝ていこうかと逡巡した後それもやめた。一緒に朝は迎えない方がいい。
寝台を降りて袍を整えてから手燭を掴んだ。明かりが諸葛亮を照らし出す。
先程の、切なげに自分の名前を呼ばれた時の事が何故か思い出されてしまい、司馬懿はひとつ嘆息を残して寝所を出ていった。

 

  

   

  
おわり

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